国際恋愛論

カナダ人と国際結婚。外資系企業に勤める、明るいネクラ。

Théorie

de l'amour international

【書評】『困難な結婚』と趣味の話

ご趣味は?

暇さえあれば気付いたらやっていること。するなと言われてもしてしまうこと。

それを趣味と呼ぶのなら、私の場合は月並みだけど読書がそれにあたる。

小さい頃から、児童図書館で最大貸出冊数を毎回借りては返却期限前倒しで新たにMAX冊数借りていた。

読書のすごいところは、そのペースでも私が児童図書館の全ての本を読み尽くすことはなかったことだ。それは大人になって一般図書館になっても、社会人になって新刊を気兼ねなく買えるようになった書店でも同じで、この世の本を読み尽くすことはまず無い。遠慮せずどんどん読んでも一生楽しめる。

西加奈子さんが『サラバ!』で直木賞を受賞した時、同じようなことをコメントしていて僭越ながら「そうそう!」と思ったことを覚えている。

 

同居でひとり時間は無くなるか?

夫と同棲する前、正直私は「一緒に住むのは気疲れしそうだし、一人の時間が無くなりそうでやだなぁ」と独身貴族の男性のようなことを思っていた。

でもいざ一緒に住み始めたら、それは杞憂だった。暇な時は、私はソファで読書を、彼はデスクでPCいじりを、二人思い思いの時間を過ごすまでだからだ。

逆に、二人でいると(一人でいる時と比べて)異常に息が詰まってしまうという人は、自分が気を遣い過ぎか、相手との関係性を見直した方がいいと思う。

 

勝手にブックレビュー

最近読んだ本で良かったのは、哲学者で武道家内田樹先生の『困難な結婚』だ。

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今でも書店の目立つ所に置いてあることが多いし、タイトルのインパクトが強いのでご存知の方も多いだろう。

帯だけでも絶対に面白いと確信させる内容なのだけど、読んでみると結婚に限らず、恋愛・キャリア・人生全般に汎用できる考えが内田節で書き下ろされており、気持ち良い。

また、最近の自己啓発本の傾向として「自分らしく生きよう!」「今までの常識は捨てよう!」という風向きが強いが、ギリギリ昭和生まれの私としては頷けるところもあれば「それはちょっとさすがに極端なんじゃないの」と思うことも少なくない。

その点、内田節の良い所はそこそこに保守的な点だ。それが私にとってはちょうどいい塩梅なのだ。

例えば、最近は“生涯独身でも生きていける社会になりつつあるのだから、結婚は個人の自由だ”という論調が市民権を得てきている。対して内田先生の論旨としては 

だって、結婚をして子どもを産み育てるというのは「人間としてごくふつうのこと」だからです。(P. 62)

 とのこと。こんなこと、今日の日本で軽々しく言ったら間違いなくヤバい。

しかし、前述の文章の後にはこう続く。 

例外的な能力や才能がなければ配偶者が見つけられないというルールでゲームをしていたら、人類は今から数万年前に絶滅していたはずです。「ふつうの人なら誰でも結婚できる」のがデフォルトなんです。少なくとも人類の発祥から半世紀ほど前まではそうでした。今が異常なんです。(P. 62-63)

さらに前後を読めば、どのような意図・文脈でこういう言葉が出てきたのか、そしていかに内田先生が結婚について考える人を(愛を込めて)叱咤激励しているかが伝わってくる。ちなみに上記の文章は「結婚するのはなんのためか?ー社会の原理と戦うため」という節で登場する。

無責任に、あるいは説教臭く(押し付けがましく)言ってくる人とは響き方が違うのだ。

未来志向はいいことだけど、現行制度は歴史の中では一応ベスト(ベリーベストではないにしろ)な形を取っているという視点に立脚しているところが、勉強になる。

 

「困難=不幸」ではない

この本に一貫して伝えられているのは「幸せになるために結婚するのではない。不幸にならないために結婚するのだ」というメッセージ。一見すると夢が無いように思えるが、読後は前向きな気持ちになれる本だ。

カバーもわりとおしゃれなデザインなので、書店で見かけたら是非手にとってみてほしい。